子供の脳と発音①——バイリンガル教育ーー母親が話しかける言葉は英語???
ある生徒から驚くべき話を聞いた。
バイリンガルを作りたい日本人の母親が、母親の英語がどんなに下手でもできる限り英語で幼児に話しかけてください——そのような幼児教育が日本で広まっているという。
驚いた私は、子供英語教育を幅広く手掛けている生徒に聞いてみた。彼女が言うには「おうち英語」は今や完全にブームになっていると言う。
「親の発音が下手でも構わない。英語を当たり前にあるものとして認識させることが大切——そんな考え方が、今や日本中の子育て世代に広まっているんです。」
果たして、本当にそうなのだろうか。
子供の脳は「下手な発音」と「正確な発音」を区別しない。入ってきた音をそのまま「正しい音」として記録する。
幼児の脳は、耳にした音を基準として音韻を形成していくことが知られている。
コックニーはコックニーとして完成する。方言は方言として完成する。それと全く同じことが、「日本語訛りの英語」でも起こっているわけだ。
高額な教材を買わされ、「発音は下手でも大丈夫」そう信じて毎日子供に話しかけている母親たちがいる。その善意と努力を否定したいわけではない。私も二人の子どもを育ててきた。子どもの将来の可能性を少しでも広げてあげたいと願う親の気持ちは、よく理解できる。
だからこそ、少し考えてみてほしい。
その母親の話す英語が間違った英語であったら?日本語アクセントバリバリの英語であったらどうなるのだろう?赤ちゃんの耳はきちんと「正しい発音」として取り込んでくれるのだろうか?
そして、肝心な日本語はどうするのだろうか。
この時期は、日本人としてきちんとした日本語を形成するためにも、決定的に重要な時期である。母語とは単なる言葉ではない。思考の基盤であり、人間形成の土台である。
不正確な英語を毎日聞かせることで、英語も日本語も中途半端になる。日常会話はできても、論理的に考え、深く表現する力がどちらの言語でも育たない——「セミリンガル」と呼ばれる状態に陥る危険がある。
実際、私の娘は小学校3年でアメリカへ行った。日本語もキープしてほしい私としては、日本語教育も抜かりなく続けていた。でも、英語の勉強だけで大変な時期。とうとうちゃんぽんになり、言語が中途半端なために、両方の論理的思考能力が追いついていかない状況になった。
これは絵空事ではない。私自身、娘がその状況に陥った経験を持つ。
私が心配しているのは、日本語を犠牲にしてまで、母親の不完全な英語を幼児期の主要な言語入力にしようとする風潮である。
次回は、なぜ子供の脳はそのように音を取り込むのか。その仕組みを掘り下げていこうと思う。